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はじめまして北川裕康です。マイクロソフトやシスコシステムズなどのグローバルIT企業で、長年働き3年前に独立アドバイザーになりました。クライアント企業に、GTM戦略の策定、事業開発、マーケティング施策の立案・実行などを支援させていただいています。独立した後も、AI insideとRevCommというAIベンダーでフルタイムの仕事をしました。
この度、ご縁があり、IDEATECHのエグゼクティブフェローに就任しました。これまで、IDEATECHとは、共同で市場実態調査などを実施してきました。連携をさらに強化して、皆様のビジネスに貢献できるように活動していきます。よろしくお願いします。
私はマーケティングにおいては、世界基準にこだわり続けてきました。その観点で、AIで激変する世界のマーケティングや顧客購買行動への対応について最新動向をこのコラムで伝えていきます。
今回は、IDEATECHのサービスの中心であるコンテンツについてです。
コンテンツについて私の考え方は、シンプルに「Content is King(コンテンツは王様)」です。海外のマーケティングでは、コンテンツのことを「マーケティング・アセット(資産)」と呼びます。単なる作業物ではなく、積み上がる「資産」だからこそ重要なのです。
まずは自己紹介も兼ねて、私とコンテンツとの出会いからお話ししましょう。
1993年、マイクロソフトでの原体験
私は長年、コンテンツと真正面から向き合いながらマーケティングを実践してきました。
私とコンテンツの出会いは、遡ること1993年のマイクロソフト入社時にあります。Windows 3.1が世に出た年です。当時マイクロソフトでは、Windowsプラットフォームをエンタープライズ市場へ本格的に普及させるためのSQL Serverなどの製品群やパートナー・プログラムが提供され始めた時期でした。
私の最初のミッションは、SIer向けの「認定ソリューションプロバイダー(MCP/CSP等)」制度の立ち上げにおいて、そのイネーブルメント(有効化・育成)を担当することでした。パートナー向けの資料を作成し、毎月物理的なボックスに詰め込んで配布していたのです。その活動の中で、私がコンテンツとして特に目を付けたものが2つありました。
1つ目は、PowerPoint資料のノート欄まで徹底的に作り込むことです。
パートナー企業(認定ソリューションプロバイダー)の営業やプリセールスに、そのままプレゼン現場で活用してもらうためでした。当時はまだプロジェクターが恐ろしく高価な時代でしたから、カラー印刷してOHPフィルムに焼いて提供していました。今思えば時代ですね。しかし、現場では「そのまま使える」と非常に喜ばれました。
もう1つは、海外では一般的だった「ホワイトペーパー」の導入です。
当時の日本では、ホワイトペーパーは普及していませんでした。現在、日本のベンダーはeBookなども含めて広くホワイトペーパーと呼びますが、本来は名前の通り、白地にテキスト中心で事実やロジックが記載された「白書」です。当時はWord文書で作成されていました。
私は米国本社にある英語のホワイトペーパーを徹底的に翻訳し、市場に大量に流通させました。おそらく、日本のIT業界でこうしたアセット主導のコンテンツマーケティングを本格的に展開したのは、私が最初期の一人ではないかと思います。今でもその傾向が残っていますが、日本のマーケティングは、広報・宣伝だったからです。
面白いエピソードがあります。SQL Server関係のホワイトペーパーの提供をCall To ActionにDMキャンペーンを実施した時のことです。FAXでの応募だったのですが、応募が殺到してFAXの処理が追いつかず、代表電話に私の呼び出しが多く寄せられました。DMの宛名が私の名前だったのです。今では考えられないですね。
学習用の操作ガイドやパートナー向けの製品販売ガイドなど、長年マイクロソフトで使われ続けることになる「最初のコンテンツ群」を次々と開発しました。Blogもたくさん書きました。
その後、様々な企業でマーケティング戦略を指揮してきましたが、一貫して感じてきたのは「やっぱり、Content is Kingだ」ということです。
マーケティングにおけるコンテンツの本質
海外では、マーケティング活動は、よく「Vehicle(車両)」に例えられます。「マーケティング・チャネル」という道路を通り、ターゲットとなるペルソナへ「価値あるコンテンツ」を届けるための「乗り物」がマーケティング活動です。
だからこそ、マーケティング活動の根本はコンテンツそのものにあります。コンテンツの良し悪しで、マーケティング活動全体の質が決まると言っても過言ではありません。多くのマーケティングは、Digital Adsのような車両をみちゃっていますよね。それでは、生成AI時代に生き残れませんね。
生成AI時代の罠:「AI Slop」と「中央値」
現在、生成AIの普及によって、誰でも容易に、かつ大量にコンテンツを作成できるようになりました。見た目も非常に綺麗で洗練されています。技術の進歩としては素晴らしいことです。
しかし一方で、人間は「綺麗に作られた、いかにもAIっぽいコンテンツ」を嫌う・見抜く傾向も強まっています。「どうせ手抜きして作られたコンテンツだろう」と見透かされてしまうのです。このような価値の低いAI生成コンテンツは、現在「AI Slop(AIが吐き出したゴミ・雑多なコンテンツ)」と呼ばれています。
また、私が敬愛する経営戦略の大家・楠木建先生もおっしゃる通り、AIが生成するアウトプットは「綺麗だが、あくまで中央値(平均値)」です。中央値である以上、他社との差別化にはなり得ません。
タイトルに「〜の羅針盤」「Beyond ○○」「次の一手」といった言葉が躍るコンテンツの多くは、まさに現在の中央値を集約した典型例と言えます。
そして面白いことに、生成AI自体も賢くなっており、こうした「AI Slop」のような低品質コンテンツは学習データから除外・低評価されるようになっています。LinkedInでも対策が強化されることが、最近発表がありました。
AI時代でも「Content is King」と言える理由
では、生成AI時代においても「Is Content still King?(コンテンツは尚も王様か?)」と問われれば、私の答えは「大いなるYes」です。
生成AIの普及により、BtoBにおける顧客の購買プロセスは激変しました。顧客はベンダーの営業に会う前に、生成AIを使って自社課題の解決策を探り、候補ベンダーを絞り込んでいます。生成AIを使えば、製品の機能比較表など一瞬で作れてしまうからです。
このような時代において、マーケターが意識すべき重要なポイントが2つあります。
- 生成AIに「好まれ、正しく学習される」コンテンツを世に出すこと
- 「中央値」ではなく、自社独自の強力な見解を込めること
生成AIに好まれるコンテンツとは?(E-E-A-Tの重要性)
完璧な正解があるわけではありませんが、私が常に意識しているのは「E-E-A-T」です。E-E-A-Tとは、Googleの検索品質評価ガイドラインで定められている重要指標であり、「Experience(経験)」「Expertise(専門性)」「Authoritativeness(権威性)」「Trustworthiness(信頼性)」の頭文字を取ったものです。
具体的なコンテンツ例としては、以下のようなものが挙げられます。
- 自社独自の市場調査結果や検証・実験データ
- 権威ある専門家の発言や一次情報
- 自社の表彰・受賞歴
- 現場での失敗談や、試行錯誤のプロセス公開
こうしたE-E-A-Tを満たすコンテンツこそが、人間だけでなく生成AIにとっても信頼できるソースとして好まれ、学習されます。
単なる「AI検索(GEO)対策」にとどまらず、顧客がAIで製品比較を行った際に、自社に有利な評価軸(基準)が形成されるよう、質の高いE-E-A-Tコンテンツを作成することが大事です。そして、PRなどで拡散し、AIを学習させておく必要があるのです。
中央値を脱する「ブランドPOV」の構築
もう1つの「中央値ではない独自の見解」のことを、「ブランドPOV(Point of View)」と呼びます。POVとは直訳すると「視点・独自の見解」のことです。
平均的な回答(中央値)を提示するのではなく、「自社ブランドとしてこのテーマをどう捉えているか」という独自の洞察・スタンスを持つこと。これこそが、他社との差別化であり、UVP(Unique Value Proposition:独自の価値提案)の核となります。口で言うほど簡単ではありませんが、これこそが過酷な競争を勝ち抜くための源泉です。
次回以降の連載では、様々な私の「POV(独自の視点)」を切り口に、AI時代のマーケティングやセールス業界の動向や取るべきアクションを深掘りしていきます。お楽しみに。