// INDEX
- はじめに
- A社が抱えていた課題
- つまずきの正体
- 何を変えたのか
- ① 旗を立てる場所を1つに絞った
- ② 誰に聞くかを、狙うフェーズから逆算した
- ③ 設問を「論点」から逆算した
- 結果どうなったのか
- まとめ:AIで購買フェーズが変わった時代のホワイトペーパーには何が大事なのか
- FAQ
- Q. ホワイトペーパーを出しても成果につながりません。何が原因ですか?
- Q. 新機能のプレスリリースを出しても、反応がありません。なぜですか?
- Q. 商談で毎回「競合と何が違うのか」と聞かれます。どうすればいいですか?
- Q. AIに聞けば答えが返ってくる時代に、ダウンロードされるホワイトペーパーは何が違うのですか?
- Q. 成果につながる調査は、どう設計すればいいですか?
はじめに
かつてホワイトペーパーは、BtoBマーケティングにおけるリード獲得の定番施策でした。ノウハウや事例を資料にまとめ、ダウンロードと引き換えに見込み顧客との接点をつくる。コンテンツマーケティングの中心的な手法として、多くの企業が取り組んできました。
ところが今、その前提が変わり始めています。生成AIの普及により、買い手は営業に会う前に、自分で課題を特定し、サービスを比較し、絞り込むようになりました。「日本のBtoB大型購買プロセスに関する実態調査(2026)」(出典:元マイクロソフト業務執行役員・現デマジェン総研 北川裕康氏 × IDEATECH共同調査 ※1)では、購買担当者の70.4%が、営業と接触する前に「課題の明確化」を終えている、またはおおむね進めていたことがわかりました。買い手は、ベンダーに教わるのではなく、自分で課題を定義し、意思決定を進めているのです。

この調査を共同で実施した北川氏は、こうした変化を「バイヤーイネーブルメント(買い手支援)」というテーマで捉えています。買い手が自ら購買を進める時代に企業へ求められるのは、製品情報を一方的に届けることではなく、買い手の意思決定を後押しする「判断材料」を提供すること、という考え方です。

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この変化は、コンテンツの役割を根本から変えます。買い手が自走する時代に効くのは、どこにでもある情報のまとめではありません。課題に気づき始めた段階、解決策を探す段階、比較・評価する段階、最終判断の段階。買い手が今いるフェーズに合わせて「次の一歩を決めるための判断材料」を渡せるかどうか。それが選ばれるコンテンツの条件になりました。その源泉の一つとなるのが、他のどこにもない独自の一次データです。
本稿では、ホワイトペーパーの成果に伸び悩んでいたある企業が、「どのフェーズの、どんな買い手に届けるか」を定めて一次データを起点に成果を立て直した事例を紹介します。AI時代のホワイトペーパーには、どのような要素が必要なのでしょうか。
A社が抱えていた課題
営業組織向けのAIツールを提供するSaaS企業A社。従業員は十数名、サービスの提供開始から1年ほどのスタートアップです。マーケティングは実質1名の体制。
ターゲットとしていた顧客像は、営業組織を数十名以上抱える大手・エンタープライズ企業の営業企画部門や、DX推進部門。プロダクトは「まだ市場に定まった名前がない」新しいカテゴリに属していました。
SEO記事の作成や、数本のホワイトペーパー・プレスリリースなど、発信をしていなかったわけではありません。新機能開発のたびに、他社が公表している調査データを引用し、自社の解釈を添えて出す。ただ顧客に届いている感覚がありませんでした。
また、商談に入るとほぼ毎回、同じ質問を受けていました。「それは、うちが入れている大手ツールと何が違うんですか」「議事録の自動化なら、今使っているもので足りるのでは」。商談では、プロダクトの世界観・営業活動そのものを変える構想も説明していましたが、好意的な評価として返ってくるのは「報告内容が揃うのはいい」「記録が自動化されるのは助かる」という、業務効率化ツールとしての評価。つまり、機能では買われても、思想では買われていない状態でした。
失注理由を分解すると、最も多いのは製品評価ではなく「時期尚早」で、およそ4割。さらに、商談が1回で終わってしまう案件が7割を超えていました。製品が負けているのではなく、その前段で止まっている。ここが、当時の一番の悩みでした。
つまずきの正体
では、何がつまずきの正体だったのでしょうか。その資料やリリースが、どのフェーズの買い手に「どんな判断材料を渡すのか」、ここが定まっていなかったのです。
同社が出していた情報は、ほとんどが「新機能のお知らせ」でした。これは、購買の最後の段階にいる買い手、つまり課題がすでに顕在化し、複数の製品を並べて比較している人にしか効かない材料です。
ところが、実際に商談で会っていたエンタープライズの担当者の多くは、その手前にいました。「うちの営業は属人的だ」「若手の立ち上がりが遅い」と薄々感じてはいる。けれど、それを予算をつけて解くべき課題として定義できていない。そんな状態で機能の説明を受けるので、「時期尚早」で終わってしまっていました。
この段階の買い手にとっての判断材料とは、「実は、あなたの組織でも同じことが起きているかもしれない」と気づかせる情報です。これがないことは、まだ名前のないカテゴリで戦う会社にとって、致命的でした。
何を変えたのか
やったことは、「どのフェーズの、どんな買い手に、どんな判断材料を渡すのか」を決め、そのための一次データを自分たちで作ることです。順番はこうです。
① 旗を立てる場所を1つに絞った
同社が語れるテーマは、大きく2つありました。ひとつは、営業組織全体の底上げ・セールスイネーブルメントの文脈。もうひとつは、商談で交わされた情報が組織に残らないという、情報資産化の文脈です。
議論の結果、後者の文脈はすでに市場の関心が寄り始めており、かつ、効率化ツールとしての評価にとどまっていたとはいえ、実際の商談で「これは助かる」という反応が取れていた勝ち筋の実感がある領域を選びました。
② 誰に聞くかを、狙うフェーズから逆算した
対象は、営業組織を数十名以上抱えるエンタープライズ企業の、営業部長・営業マネージャーに限定しました。実際に稟議を動かす立場であり、かつ「なんとなくモヤモヤしているが、まだ言葉にできていない」層です。
③ 設問を「論点」から逆算した
「◯◯は重要だと思いますか」という問いは立てませんでした。当たり前の数字しか出ず、答え合わせも驚きも生まれないからです。代わりに、建前と本音のあいだに差が出そうな論点に絞り込みます。
- 仕組みの上では記録されているはずの情報は、本当に足りているのか
- むしろ「記録に残っていない情報」のほうが価値が高いと感じていないか
読者が確かめたくなる仮説を先に立て、それを検証する形で設問を組む。この時点で、調査の勝負はほぼ決まります。
調査を実施し、「ツールを入れたのだから、情報は残っているはずだ」という建前を、静かに壊す数字が判明しました。これが、現場の営業企画やマネージャーの実感と重なりました。
こうして、まだ課題に気づいていない買い手に「これはうちの話かもしれない」と思わせる、課題認識フェーズの判断材料となる一次データが生まれました。同時にこれは、その論点を最初に数字で示したのが同社だった、ということでもあります。
結果どうなったのか
一本の調査から生まれたのは資料一つではなく、プレスリリース、ホワイトペーパー、セミナーの企画、営業資料に差し込む根拠です。同じデータを、担当者個人の負担、営業組織の成果、事業部の意思決定という三つの視点で語り直すことで、形を変えて使えるマーケティング・営業アセットになりました。この調査で示した論点をもとに、業界カテゴリーそのものを定義することを目的とした業界白書の構想にもつながっています。
まとめ:AIで購買フェーズが変わった時代のホワイトペーパーには何が大事なのか
冒頭の問いに戻ります。AI時代のホワイトペーパーに必要なのは、皆がうすうす感じているのに、まだ誰も数字にしていないことを、自分たちで調べて数字にすることです。つまり、独自の一次データが重要です。
一次データの効果は、読者へのダウンロードにとどまりません。AIは回答を組み立てるとき、誰かのまとめ記事ではなく、データの大元である一次情報源を参照し、引用しようとします。つまり、独自の調査データを持つことは、人に選ばれる理由になると同時に、AIに引用される理由にもなるのです。
さらに、この事例には、もう一段の意味があります。同社が置かれていたのは、カテゴリにまだ名前がなく、比較の土俵が他社の言葉で作られている状況でした。そこで一次データを持つということは、「何を基準に選ぶべきか」という論点そのものを自分たちで置く行為でした。借りてきた数字で語る会社は、他社が作った基準の上で説明を続けることになります。自分で調べた数字を持つ会社は、基準そのものを提示できます。
この事例が本当に示しているのは、コンテンツの設計思想そのものです。買い手が自分で購買を進める時代、効くのは「どのフェーズの、どんな買い手に、次の判断材料を渡すか」を定めたコンテンツということになります。同社は、最も手前の「まだ課題に気づいていない層」に狙いを定め、その層が自分の問題に気づくための一次データをつくりました。フェーズが変われば、必要な一次データも変わります。課題に気づかせる調査データ。世の中の行動を明かす実態データ。導入後の成果データなど、狙うフェーズによって集めるべき数字は変わります。そのどれもが、どこかで借りてきた情報ではなく、自分たちで調べた事実であることが必要です。
「まだ数字になっていないモヤモヤ」は、どの業界にもあります。これを独自の一次データに変え、人にもAIにも選ばれる発信源となること。ノウハウの提供から、買い手の判断を前に進める「判断材料」の提供へ。情報が洪水となった今、コンテンツづくりの分かれ目になると考えています。
FAQ
Q. ホワイトペーパーを出しても成果につながりません。何が原因ですか?
A. 「誰に、購買のどの段階で届けるか」が定まっていないことが最大の原因です。BtoBの買い手は営業に会う前に、自分で課題を調べ、比較し、絞り込みます。購買フェーズごとに必要な情報は異なるため、汎用的なノウハウをまとめた資料は「どこにでもある情報」として選ばれません。「まだ課題に気づいていない層」「解決策を探している層」など狙うフェーズを定め、その層の判断材料になる情報を渡すことが出発点です。
Q. 新機能のプレスリリースを出しても、反応がありません。なぜですか?
A. 機能の告知は、課題が顕在化して製品を比較している段階の買い手にしか効きません。多くの読者はその手前にいて、自社の課題をまだ言葉にできていません。有効なのは、機能ではなく「その機能が解こうとしている課題が、実際にどれだけ起きているか」を調査データで示すことです。同じ機能でも、担当者個人・組織・事業部の視点で語り直せば、一つの機能から複数のプレスリリースが生まれます。
Q. 商談で毎回「競合と何が違うのか」と聞かれます。どうすればいいですか?
A. カテゴリが市場に定義されていないときに起こる問いで、買い手が自分の知っている枠にサービスを当てはめようとしているサインです。機能の差分を説明しても、比較の土俵は相手の枠のままです。抜け出すには「そもそも何を基準に選ぶべきか」という選定基準を自ら提示する必要があり、その論拠になるのが独自の調査データです。市場の実態を最初に数字で示した会社が、その領域の基準を握ります。
Q. AIに聞けば答えが返ってくる時代に、ダウンロードされるホワイトペーパーは何が違うのですか?
A. 「その会社が調べなければ存在しなかった数字」が入っているかどうかです。一般的なノウハウや業界動向は、生成AIに聞けばその場で返ってきます。一方「同じ立場の人の8割が、実はこう感じている」という独自の調査データは、誰かが調べない限り存在しません。読者の答え合わせと驚きを生み、AI検索やLLMが引用する一次情報源になるのは、こうした一次データです。
Q. 成果につながる調査は、どう設計すればいいですか?
A. 集計して意味のある「論点」から逆算することです。「どこで認識がズレているか」「建前と本音の差はどこか」など、読者が確かめたくなる仮説を先に立て、それを検証する形で設問を組みます。調査は、何を聞くかを決めた時点で勝負がほぼ決まります。
IDEATECHは、調査PR支援サービス「リサピー®」で、サービス開始から5年・支援企業500社以上・調査案件2,500件以上の設計実績があります(ITreview満足度4.8)。仮説設計からアンケート実施、ホワイトペーパーへの展開までを一気通貫で支援しています。自社のテーマで一次データをつくりたい方は、下記URLよりお気軽にご相談ください。
お問い合わせはこちら:https://ideatech.jp/contact/
引用
※1 北川裕康氏〈デマジェン総研〉× 株式会社IDEATECH「日本のBtoB大型購買プロセスに関する実態調査」、n=307、2026年4月16日公開、https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000629.000045863.html
※2 北川裕康氏〈デマジェン総研〉「生成AIで変化するBtoBのカスタ・マージャーニー」、2026年7月23日公開、https://note.com/rapid_dove7173/n/n902dbbed2a02