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// 北川裕康のマーケティング再考

生成AI時代のABMとは?

BtoBマーケティングAITOP
// INDEX
  1. 1. One to Oneマーケティングの理想と「静的属性」の限界(2000年代初頭)
  2. 2. リード獲得の狂乱と「量」の罠(2010年代前半)
  3. 3. インテントデータの衝撃と「動的セグメンテーション」(2015年〜2020年頃)
  4. 4. そして現在:AIが解き明かす「バイイング・センター」と真のOne to One
  5. まとめ

今更ながら、よく売れた書籍「Sales is」を読んでみました。なお、続編の「Sales is 2」もすでに購入済みです。当たり前のことをきちっとまとめられている良書ですね。ただ、1点気になったのがABMの記載です。

ABMとは、「狙いを定めた企業に絞って関係を築き、その企業から取引額や発注額を最大化させるための営業活動」

いやいや、ABMは、Account Based Marketingの略で、文字通りアカウントをベースとしたマーケティング手法です。上記の定義だとABMセールスになり、それはAccount Based Salesで、普通のセールスじゃないかと違和感を覚えました。マーケティング会社によってはABMは戦略、ツールベンダーによっては単なる「ターゲティング広告の配信手法」として矮小化してしまう始末です。いやいや、GTM戦略の一環のマーケティング活動だし。

ということで、今回は世界のABMの発展の歴史をみて、ABMの理解を深めていただくヒントを提示します。なお、日本ではある問題があり、海外で遂行されているABMが実装できないのです。そこから混乱が生じているのです。さて、それは?

B2BマーケティングやGTM戦略を議論する際、もはや外せない標準言語となったABMです。しかし、その本質を単なる「特定の企業リストに広告を当てる手法」や「新しい営業ツール」と捉えていると、大きな見落としをしてしまいます。

ABMの歴史とは、1990年代に提唱されたOne to Oneマーケティングという壮大な理想が出発点です。それから、テクノロジーの進化とセグメンテーションの深化によって、いかに現実のB2B営業・マーケティング戦略として実装されてきたかの歴史そのものです。

「テクノロジー」と「セグメンテーションの解像度」という2つの軸から紐解いてみたいと思います。

1. One to Oneマーケティングの理想と「静的属性」の限界(2000年代初頭)

マスに向けて同一のメッセージを叫ぶ時代から、「顧客一人ひとりと個別の関係を築く」という思想への転換は、当時のマーケターに鮮烈な衝撃を与えました。

この思想をB2Bの文脈で具体化したのが、2000年代初頭にITSMAが提唱した元祖ABMです。

当時のテクノロジーはCRMやSFAの黎明期・定着期。社内にある名刺情報や過去の取引履歴を一元化できるようになりました。しかし、当時のセグメンテーションは「従業員規模」「年商」「業種」といった静的な属性(ファーモグラフィクス)が限界でした。

結果として生まれたのは、ごく一握りの超大企業に対してトップ営業が個別に張り付く「Strategic Account」思想です。思想としては極めて正しいものの、属人性に依存し、スケールを持たせることは不可能でした。私もこの頃、特定の大手企業向けに、個別のイベントやカタログ、ニュースレターを提供していました。

2. リード獲得の狂乱と「量」の罠(2010年代前半)

2010年代に入ると、MAが急速に普及します。CookieトラッキングやWeb行動ログによって、「誰がどのページを見たか」が可視化されるようになりました。これによってOne to Oneの実現に近づいたかのように見えましたが、ここでB2Bビジネスはある種の「罠」に陥ります。

テクノロジーがもたらしたのは、個社への深いアプローチではなく、MQLの大量生産でした。

個人単位のスコアリングによるセグメンテーションが進んだ結果、展示会やホワイトペーパーで個人情報を集め、スコアが上がったらインサイドセールスが電話をかける——いわゆる「デマンドジェネレーションのファネルモデル」です。日本では、THE MODELですね。

しかし、営業現場からは「リードは増えたが、大口の意思決定者には全く届かない」「現場担当者の情報収集ばかりで商談にならない」という不満が噴出します。「点(個人)」ばかりを見て、「面(アカウント)」を見失ってしまった時代でした。MQLは死んだと言われています。

これは、いまだに日本で続いています。しかし、私の大手のクライアントの行動をみると、展示会に積極的にいくような時間を持て余しているような人はまずいません。資料のダウンロードも「営業電話がかかってくるからほぼしない」と口を揃えます。

3. インテントデータの衝撃と「動的セグメンテーション」(2015年〜2020年頃)

この「個人リードの大量生産」に対する強烈な反省から、ABMが再び脚光を浴びることになります。それを支えたのが、ABM専用プラットフォーム(Demandbaseなど)とインテントデータの登場です。

自社のWebサイトに来訪する前の段階で、「今、世の中で自社に関連する特定のキーワードや競合製品を調べている企業はどこか」が、テクノロジーによって炙り出せるようになりました。検索ベースのインテントや、比較サイトでのインテントが取得できるようになりました。

また、ZoomInfoなどのコンタクト情報や、HG Insightsのような特定企業の購買情報を容易に取得できるサービスの浸透も、この時代の特長です。

ここに至り、GTM戦略が浸透し始め、セグメンテーションは決定的な進化を遂げます。 これまでの「過去の実績」や「固定された企業規模」ではなく、今まさに課題を抱え、解決策を探しているというようなコンテキストに基づいた動的なセグメンテーションが可能になりました。

HG Insightsでターゲット企業を決め、インテントを示した企業に、ZoomInfoのコンタクト情報で電話したり、LinkedIn Sales Navigatorを使ったりしてリーチできるようになったのです。

ターゲット企業を優先度で分類し、検討熱度の高い企業群に対して、個別コンタクトや、IPターゲティング広告やパーソナライズされたコンテンツを的確に届けるようになりました。以前は、ちまちまアカウントにリーチしていたのですが、これによって、大量のアカウントを対象にマーケティングができるようになりました。コールドコールは死んだと言われました。

しかしここで、日本は完全に取り残されることになります。日本は個人情報保護や法規制の観点から厳格な「オプトイン」が基本であり、海外のように精緻な役職者コンタクト情報(電話番号・メールアドレス)をサードパーティから取得できるデータインフラが存在しません。この「データ環境の根本的な違い」こそが、日本で海外流のABMがそのまま実装できず、単なる「広告配信ツール」や「気合いのターゲット営業」へと先祖返りしてしまう元凶なのです。ただ、大手ベンダーは、コンタクト情報を豊富にもっているので、ABMが通用しますね。

私も外資に勤めていたので、HQからインテントを取得してABMを実施しろと言われて工夫して実施していました。インテントまではとれるのですが、結局、部門の電話番号を購入して、コールドコールしていました。

4. そして現在:AIが解き明かす「バイイング・センター」と真のOne to One

現在、ABMはさらに次の次元へと移行しています。牽引役はもちろん生成AIと、RevOps(レベニューオペレーション)によるデータ統合です。生成AIで検索より生成AIやAI検索でリサーチすることが主になってきており、検索ベースのインテントだけを追っていても、ダメな時代になりましたね。

B2Bの高額な購買決定は、一人の担当者が下すことはありません。調査によれば、エンタープライズの購買プロセスには平均して6〜10人以上、調査によっては16人以上のステークホルダーが関与していると言われます。

現在のテクノロジーは、企業という大枠(アカウント)を捉えるだけでなく、「バイイング・センター(購買意思決定に関与する人々のグループ)」の全体像と、その力学を浮き彫りにします。

  • 起案者は何を懸念しているのか?
  • 現場の抵抗勢力はどこにあるのか?
  • 最終決裁者(CIOやCFO)が納得するための投資対効果(ROI)ロジックは何か?

商談の書き起こしデータ、メールのやり取り、Web上の行動履歴、さらには組織図のデータをAIが統合・解析することで、「アカウントの中に存在する、異なる思惑を持った複数の意思決定者それぞれに対して、最適なタイミングで、最適なメッセージを届ける」ことが可能になりました。

DSR(デジタル・セールス・ルーム)というMarTechが注目されています。これは、以前からあったセールスコンテンツ管理プラットフォームと、個別ポータルプラットフォームが進化し、企業ごとにカスタマイズされたポータルを提供して、必要なコンテンツやコミュニケーション手段を提供するサービスです。AIで個別ポータルが簡単に作れるようになった結果です。ここにバイイング・センターの人たちを誘導するのです。

シグナルという考え方が定着しつつあります。ゼロ検索で優先度が落ちている検索インテントだけでなく、資金調達、新役員就任、競合ツールのリプレイス検討などの各種シグナルを捕捉するものです。このようなアカウントが発するホットなシグナルを逃さないようにします。最近は、CRMと統合されて、捕捉したシグナルによって、動的に対応のワークフローが設定できるようになってきています。

また、コンタクト取得サービスも進化し、Clayでは複数のコンタクトソースから横断的にコンタクトが取得できるようになりました……しかし、ここでもやはり日本のデータ環境の壁が立ちはだかっているのが現状です。

まとめ

かつて理想論として語られたOne to Oneマーケティングは、テクノロジーの進化を経て、生成AIの進化とともに、「B2B購買組織の力学に寄り添った、高解像度なマーケティングによるアカウント攻略戦略」として結実しました。

海外の最新MarTechスタックをそのまま日本でコピーすることは難しくても、その「思想」から学ぶべき本質は変わりません。ただ、コンタクト取得の壁は、チャレンジして緩和していく必要があります。私も、明確な答えはまだもっていません。

テクノロジーが進化したからこそ、いま私たちマーケターに問われているのは、ツールの使い方ではなく「顧客理解の解像度」と「高品質なセグメンテーション力」そのものです。すべては、自社が勝てる市場とアカウントを冷徹に見極める「GTM戦略」から始まります。

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