1なぜ今、この記事を経営者に届けるのか
日本経済新聞は2026年10月18日、「AI検索普及、ゼロクリック率68%に上昇 揺らぐサイト集客」と題した記事を配信しました(記事)。約250万人の消費者パネルの行動ログを持つヴァリューズの調査によれば、検索結果から外部サイトへ移らずに画面上で情報収集を終える「ゼロクリック」の割合は、2025年9月の63.5%から2026年7月には68.1%へ上昇しました。背景にあるのは、AIによる要約・概要表示の普及です。
数字だけを見れば「4.6ポイントの上昇」です。しかし経営の視点で読み替えると、意味はまったく変わります。検索する人の3人に2人以上が、もはや御社のサイトに辿り着かない。つまり、これまで「検索されれば見つけてもらえる」という前提で組み立ててきた集客・営業の入口が、静かに、しかし確実に閉じ始めているということです。
これはWeb担当者やマーケティング部門の課題ではありません。顧客が御社を「知る」経路そのものが変わる、経営マターです。IDEATECHは2,500件以上の調査プロジェクトを通じて、この変化の中身を一次データで追い続けてきました。本レポートでは、記事が示す数字の裏側で何が起きているのか、そして経営者がいま何を判断すべきかを、当社の調査結果をもとに整理します。
2記事が経営者に突きつける3つの気付き
気付き1
顧客は「御社のサイト」ではなく「AIの回答」の中で御社を評価している
ゼロクリックが68%ということは、顧客の多くが、御社のサイトを一度も開かないまま御社について何らかの印象を持つ、ということです。AIが要約した数行の文章が、事実上の「御社の第一印象」になります。そこに御社の強みが正しく書かれているか、競合の説明と混同されていないか、そもそも登場しているのか。経営者がこれを確認したことがあるかどうかで、すでに差がついています。
当社が2026年5月に実施した、生成AIを業務利用する中小企業経営者311名への調査では、79.8%が「経営判断における生成AIの重要性は高まる」と答えた一方で、52.7%が自社のAI上での表示を「確認したことがない」と回答しました。AIの重要性は分かっている。しかし、自社がAIにどう語られているかは見ていない。この空白が、記事が示す「揺らぐサイト集客」の正体です。
生成AIを業務で利用する中小企業経営者311名のうち(2026年5月)
- 79.8%
が、「経営判断における生成AIの重要性は高まる」と回答
- 52.7%
が、自社のAI上での表示を「確認したことがない」と回答
気付き2
BtoBの大型購買でも、入口はすでに検索エンジンからAIに移っている
「ゼロクリックは消費者の話で、法人取引は別」と考えたくなります。しかし当社の調査はその前提を否定しています。2026年8月、500万円以上のIT製品・サービスの購買に関与した502名を対象にした調査では、90.6%が選定過程の少なくとも一部で生成AIを利用し、「課題認識・整理」の段階で主に参照した接点は「生成AI・AI検索」が36.5%で最多、検索エンジンの24.9%を上回りました。さらに53.8%が、生成AIで候補企業・製品の比較表を作成しています。
500万円以上のIT製品・サービスの購買に関与した502名のうち(2026年8月)
「課題認識・整理」の段階で、主に参照した接点
- 90.6%
が、選定過程の少なくとも一部で生成AIを利用した
- 53.8%
が、生成AIで候補企業・製品の比較表を作成した
- 74.3%
が、深掘り比較の段階までに最有力候補を固めていた
御社が営業として接触する前に、買い手はAIに課題を整理させ、AIに比較表を作らせ、候補を絞り込んでいます。最有力候補が固まった時期を合算すると、深掘り比較までで74.3%でした。商談のテーブルに着いた時点で、勝負の7割は終わっている。これが2026年のBtoB購買の実態です。
気付き3
「どこにでも書いてある情報」は、AI時代にはゼロ円の価値になる
ゼロクリックが増える理由は単純です。AIが要約できる程度の情報なら、サイトを開く必要がないからです。裏を返せば、AIに要約されて終わる情報しか持たない企業は、顧客との接点そのものを失います。当社がBizibl Technologiesと2026年9月に共同で実施した調査では、自らAIに質問して情報収集を行った購買検討関与者の8割超が、既知の説明が中心の記事・資料は「1〜2年前より読む価値が下がった」と回答し、85.3%が「成果の数値がなくても、担当者の作業や判断の経緯が具体的なら購買の判断材料になる」と答えています。
自らAIに質問して情報収集を行った購買検討関与者211名のうち(2026年9月・Bizibl Technologiesとの共同調査)
- 8割超
が、既知の説明が中心の記事・資料は「1〜2年前より読む価値が下がった」と回答
- 85.3%
が、「成果の数値がなくても、担当者の作業や判断の経緯が具体的なら購買の判断材料になる」と回答
一般論は要約され、消費されて終わる。顧客の手元に残るのは、御社にしか語れない一次情報と、御社でしか得られない具体的な経緯です。これは「コンテンツを増やせ」という話ではなく、御社が何を持ち、何を公開すべきかという、情報資産の経営判断です。
3IDEATECHの調査から見える構造:「集客」から「判断支援」へ
ゼロクリックの数字が示しているのは、集客手法の寿命ではなく、企業と顧客の関係の組み替えです。当社が2026年に延べ1,139名を対象に行った3回の共同調査(エグゼクティブフェロー北川裕康との共同)から、その構造を3点に整理します。
研究レポート 第1弾より
最有力候補が固まった割合(累計)
- 01課題認識・整理28.3%
- 02解決策・候補探索51.2%
- 03深掘り比較74.3%
- 04ベンダー確認・最終選定91.4%
- 05意思決定・稟議98.6%
深掘り比較までに、74.3%が最有力候補を決めている
買い手は、御社に会う前に、ほぼ検討を終えている。
営業と本格的にやり取りする時点で、課題の明確化が「完了」「おおむね進んでいた」と答えた割合は70.4%でした。サイトに来て、資料を請求し、営業に会って理解を深める――この順番はもう標準ではありません。理解はAIと共に先に進み、御社が登場するのはその後です。
買い手は、フォームに入力せずに検討を進めている。
資料・価格・事例を見たいと思いながらフォーム入力を避けた経験がある人は84.7%。理由の44.5%は「生成AIで同等の情報を得られると思ったから」でした。ゼロクリックの正体は、サイトに来てから「離脱」しているのではなく、そもそも来る必要を感じていない、という点にあります。リード数の減少を営業の問題と見るのは誤診です。
買い手の社内では、御社の知らない説明が行われている。
年間契約500万円以上の案件では、7名以上が意思決定に関与した案件が58.5%を占め、情報システム・経理・セキュリティ・法務・購買と、判断基準の異なる部門が加わっています。検討が長期化した案件の63.6%は「経営層の判断が下りるまで時間がかかった」ことを理由に挙げました。御社の営業が渡した提案書は、御社のいないところで、御社の知らない言葉に翻訳されて稟議に上がっています。
買い手の行動(2026年調査)と、経営者への含意
- 70.4%
営業接触前に課題が明確化済み
含意「理解させる」営業は遅すぎる
- 84.7%
フォーム未入力のまま検討を継続
含意リード数は検討量を反映しない
- 74.3%
深掘り比較までに最有力候補が確定
含意商談前に勝負の7割が決まる
- 58.5%
7名以上が意思決定に関与
含意提案書1冊では社内説明を支えきれない
出典:AI時代のBtoBバイヤージャーニーマップ(IDEATECH、2026年10月5日)。各回で対象条件が異なるため、時系列比較や全体代表値ではありません。
この構造から導かれる結論は一つです。これからの企業に問われるのは「見つけてもらう力」ではなく、顧客が自ら判断を進めるときに「判断材料として参照される力」です。当社はこれを、サイトやリリースを「集客装置」から「マーケティング・アセット(顧客の意思決定を支える情報資産)」へ組み替えることだと捉えています。
4経営者が明日から着手すべき5つのこと
「見つけてもらう力」から「判断材料として参照される力」へ
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1まず、AIに自社のことを聞いてみる。
52.7%の中小企業経営者が、自社のAI上での表示を確認していない調査①
ChatGPTやGoogleのAIモードに「◯◯(御社の事業領域)でおすすめの会社は」「◯◯社の強みは」と尋ねてください。中小企業経営者の52.7%がやっていないこの10分が、御社の現在地を最も正確に教えてくれます。出てこない、間違っている、競合しか出ない――どの結果であっても、それが顧客の第一印象です。
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2「サイト流入」から「判断材料として参照された回数」へ、見る指標を変える。
84.7%が、フォームに入力しないまま検討を続けた経験がある調査②
流入とリード数が減っているのは、検討が減ったからではなく、検討がAI上で進んでいるからです。AI回答での引用・言及、比較表に載っているか、商談時に顧客がすでに何を知っていたか。経営会議で見る数字を、この変化に合わせて組み替えてください。
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3自社にしか出せない一次情報を、公開情報として持つ。
8割超が、既知の説明が中心の資料は「読む価値が下がった」と回答調査③
AIは一般論を要約しますが、根拠のある独自データや具体的な経緯は、要約の「出典」として参照します。当社の調査では、生成AIが引用するドメインの上位にPR TIMESが入っており、調査概要と数値が明記された一次情報が引用の対象になっています。自社の顧客・業界・現場から得た数字を、調査として設計し、自社ドメインに常設すること。これはPR施策ではなく、情報資産への投資です。
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4AIが参照する「選定基準」を、自社で定義する。
53.8%が、生成AIで候補企業・製品の比較表を作成した調査②
買い手の53.8%は生成AIに比較表を作らせています。その比較表の軸を誰が決めているか。誰も定義していなければ、AIが一般論から軸を選びます。自社が本当に強い基準を、調査で裏付けて第三者に発信し、業界の比較軸として定着させる。当社はこの手法を「ルールメイクリサーチ®」と呼び、AI時代のLLMO(大規模言語モデル最適化)の中核に据えています。
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5情報を「公開する層」と「相談で渡す層」に分ける。
43.0%が、「比較検討が進んだ後なら連絡を受けたい」と回答調査②
要約・結論・主要データはAIに読める形で公開し、ROI試算や自社条件に合わせた運用負荷の見積もり、社内説明用の資料は、相談の段階で個別に提供する。買い手の84.7%がフォームを避け、43.0%は「比較検討が進んだ後なら連絡を受けたい」と答えています。公開範囲を広げ、連絡のタイミングを顧客に選ばせる設計が、結果として商談の質を上げます。
- ① 株式会社IDEATECH「中小企業経営者の対話型生成AI活用に関する実態調査 2026」(2026年5月、従業員5〜299名の中小企業経営者・役員で月数回以上業務で生成AIを利用する311名)
- ② 株式会社IDEATECH・北川裕康 共同調査 第3回(2026年8月、500万円以上のBtoB向けIT製品・サービスの購買に関与した502名)
- ③ 株式会社IDEATECH・株式会社Bizibl Technologies 共同調査「AI検索時代の法人購買における情報活用の実態調査」(2026年9月、自らAIに質問して情報収集を行った購買検討関与者211名)
- 各調査は対象条件が異なるため、相互の比較はできません。
どれも大規模な投資を要するものではありません。しかし、担当者任せでは進みません。顧客が御社をどう知るかという問いは、経営者が自分の言葉で答えを持つべき問いだからです。
5結語:ゼロクリックは「終わり」ではなく「組み替え」の合図
日経の記事を「サイト集客の終わり」と読むこともできます。しかし当社は、これを顧客との関係を組み替える合図だと捉えています。顧客はこれまで以上に深く、早く、自律的に検討しています。企業の役割は、顧客を自社サイトに呼び込むことから、顧客がどこで検討していても判断材料として参照される存在になることへ移りました。
生き残る企業と、静かに見つからなくなる企業を分けるのは、技術力でも広告予算でもありません。自社にしか語れない事実を持ち、それを顧客とAIの両方が参照できる形で世に置いているかどうかです。これは2027年の課題ではありません。ゼロクリック率は、今この瞬間も上昇しています。
IDEATECHは、800社の支援と3,000件のマーケティング・アセット設計の実績をもとに、独自調査の設計から発信、AIを通じた情報提供の設計まで一貫して支援しています。
御社がAIにどう語られているか、
まず一緒に確認するところから始めませんか。
参考資料
- AI時代のBtoBバイヤージャーニーマップ(IDEATECH、2026年10月5日)
- インフォグラフィック版 バイヤージャーニーマップ
- 中小企業経営者の対話型生成AI活用に関する実態調査 2026(IDEATECH、2026年5月28日)
- AI検索時代の法人購買における情報活用の実態調査(IDEATECH・Bizibl Technologies、2026年9月30日)
- 日本経済新聞「AI検索普及、ゼロクリック率68%に上昇 揺らぐサイト集客」(2026年10月18日)
「リサピー®」「ルールメイクリサーチ®」は株式会社IDEATECHの登録商標です。